まちに開く家

tentline(テントライン)

水口裕之


近所で自宅を設計させて頂いた建て主さんより自宅で書道教室を開くことになりましたとの連絡を頂きました。設計当初から奥様より「いつか自宅で書道教室を開けたら」というご要望があり、それに答える形で1階の玄関の横に縁側付きの和室を夫婦の寝室と設けていたのですが、その部屋が予想よりずっと早く念願の書道教室としても昼間は利用されるかたちとなりました。

今までに設計した事例を振り返ってみても他にも自宅にステンドグラス教室のためのアトリエを設けた家や、コーヒー焙煎所を1階に設けた家、入居後にダイニングの空間を使って編み物教室を始められた奥様、母から受け継いだ茶道教室のある家、人通りの多い道路に面する広い土間空間を入居後にアパレル物販に利用されている家など、家をただ住むだけではなく一部を外に対して開放して色々な活動に使用されている例が多くあります。家の中にそのようなオープンな空間があることによって地域の人たちとのコミュニケーションつくりにも大きく役立っているようです。

また他のケースとして、横浜の駅近くで外国人向け賃貸住宅として設計した家は住宅として住むだけではもったいない、店舗として良さそうな好立地だったので、特に建て主の要望はなかったのですが、将来的にカフェやギャラリーなどに転用できるような街に対して開かれ、かつプライベートな空間を仕切りやすい間取りを採用しました。このようにしておけば店舗併用住宅として住まうことも、1階のみテナントとして貸すことにも対応しやすくなります。今のところ当初の予定通り賃貸住宅として順調に賃料を稼いでくれているようですが、別の使い途を想定してあることで例えば今のような予想しえなかったパンデミックの状況にも今後対応しやすいでしょう。

ちなみに私自身が住む葉山の自宅兼アトリエも3階建ての1階は完全に外部に対してオープンな土間スペースとしてあって、定期的にギャラリーやワークショップとしてまちに「家を開く」ということを実践しています。この家がいつか古民家となって誰かが受け継いだとしても、アトリエなのか、カフェなのかわかりませんがこのままこの家を大切に使ってくれるような願いで設計しています。

建物の物理的な寿命は建材や工法の進歩によって昔と比べれば格段に伸びていると思いますが、時代の変化に耐えて実用的に家を建物として生き永らえさせるための一つの方法としてほんの少し家をまちに開いてみるということも考えてみてはいかがでしょうか?

横浜・神奈川|暮らしをデザインする建築家|AA STUDIO

神奈川県、横浜市の建築家を中心とした建築家グループ。住宅や各種施設設計の経験豊かな建築家メンバー自らで運営し建築家の紹介、建築家コンペのコーディネートなどの各種サービスを行っています。

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